• 講師・講演情報(座学)

    8月26日(金)00:00 - 00:00

    題名)病態を理解するための細胞・組織の基礎,

       電子顕微鏡で何がわかるのか?

     

     このサマースクールでは,これから電子顕微鏡(電顕)を本格的に始めようという方も多いと聞いております。電顕による研究を行う際にも,光学顕微鏡レベルの知識は必須です。いろんな研究手段があるなかで,電顕を用いなければならない,あるいは電顕が研究手段として必要・有効と思われる分野があるのか,あるとすればどのような分野なのか,私自身の経験から考察したいと思います。また,医学・生物学分野の出身でない方もおられますので,光学顕微鏡レベルの基礎を解説しながら,話を進めていきたいと思います。

     ヒトの体は,細胞・組織・器官・器官系(系統)から成り立っていますが,電顕が最も威力を発揮するのは,勿論,細胞レベルの研究です。逆に言えば,消化器系,呼吸器系といった器官系のレベルでは電顕は必要なく,肉眼による観察の方が適しています。器官とは,小腸,肝臓,肺といった個々の臓器のことで,ここでも電顕の出番はありません。器官(臓器)は,4つの組織(上皮組織,結合組織,筋組織,神経組織)から構成されており,組織を知るためには光学顕微鏡が必要になってきます。器官が4つの組織から構成されていることは重要なことですが,もう一つ重要なのは,器官が小腸のような中空性器官(管腔臓器)と肝臓のような実質性器官に大別されることです。中空性器官と実質性器官には,それぞれに特徴的な構造があり,その特徴的な構造が個々の器官の機能と病態に密接に関係しています。ここでは,中空性器官として消化器系の消化管,呼吸器系の気道,泌尿器系の尿路の基本的構造について解説します。さらに,消化管の上皮組織において電顕が必要・有効な例として,小腸の上皮細胞の微絨毛と亜鉛欠乏症,気道の線毛(運動性線毛)についてカルタゲナー症候群を例として示します。

     実質性器官としては,特に構造の複雑な肝臓,肺,腎臓を取りあげます。これらの臓器は血管系と密接に関係して,それぞれ特有の機能を果たしています。そこで,肝臓では肝細胞と特殊な毛細血管である類洞,肺では肺胞と毛細血管,腎臓では特殊な毛細血管である糸球体とボウマン嚢の関係について光学顕微鏡から電顕レベルでの解説をします。  4つの組織のうち,上皮組織の下層に存在するのが結合組織です。結合組織では,線維成分である膠原線維と弾性線維をとりあげます。電顕が必要・有効であった例として,膠原線維の形態,特に周期的な縞模様と長周期コラーゲンの出現,弾性線維の形成と阻害薬の影響についての研究があります。また,神経と筋組織では,神経切断に伴う筋線維と神経筋接合部の変性をお見せします。  電顕が最も活躍する分野が,ヒトの体を構成する基本的な単位である細胞です。核では,染色質として転写活性の違いからヘテロクロマチンとユークロマチンが区別されることは基礎的な知識です。細胞間の接着装置とその異常,アポトーシス,オートファジーといった現象を形態的に捉えるのに電顕は欠かせません。また,ミトコンドリアなどの細胞小器官(オルガネラ)の研究に電顕は不可欠です。最近,各種オルガネラ間の相互作用の研究,オルガネラ機能の破綻に着目したオルガネロパチー(オルガネラ機能の破綻)という視点からの研究が行われています。このような分野では電顕観察が必須です。さらに,細胞内の分子を標的とする低分子医薬,核酸医薬の開発など,将来的に電顕が活躍する分野として期待されます。  最後になりましたが,本講義が,電子顕微鏡を学ぼうとする人に少しでもお役に立てれば幸いです。

  • 穐田 真澄

    Masumi Akita

    プロフィール)

    ギターをこよなく愛す高齢者。東京農工大学獣医学科卒業(医学博士:日本医科大学),埼玉医科大学解剖学教室,ベルリン自由大学解剖学研究所,同大学毒性学・胎生薬理学研究所勤務。埼玉医科大学解剖学助教授(中央電子顕微鏡室室長兼任),同大学中央研究施設形態部門教授(解剖学兼担)を経て,2017年埼玉医科大学名誉教授,現在に至る。

    著書

    日本人体解剖学(上・下巻)改訂20版,南山堂(2020年)。 組織学総論 - 細胞・組織の基礎から病態の理解へ - ,東京農工大学出版会(2011年)。 ギターと散歩  - よこ道,より道,まわり道 -  前編:解剖学者の卵が見た「ベルリンの壁」,聴いた「ベルリンフィル」 後編:ベルリンとナチズム,ベルリンを離れてちょっと散歩。 ブイツーソリューション(2020年)アマゾンでのみ販売。現在,YouTuberとしても活躍中。